サプライチェーンが途絶えた日、経営者は何をすべきだったのか
- 関根 壮至

- 5月24日
- 読了時間: 5分
経営者のためのブログ Vol.257

「モノが入らない」
価格が上がるのではない。そもそも仕入れができない。こういう状況に直面している中小企業経営者が、今、急増しています。
2026年2月、中東情勢の緊迫化によりホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となりました。日本の原油輸入の約90%がこのルートを通っています。この封鎖が、ナフサを原料とする石油化学製品の供給に深刻な影響を与えています。
プラスチック・合成ゴム・合成繊維・塗料・接着剤——私たちの身の回りにある無数の製品の出発点がナフサです。製造業はもちろん、建設・工事業者、卸業者、印刷業者など、業種を問わず多くの中小企業がこの影響を受けています。
価格転嫁ができないだけでなく、モノ自体が手に入らない。このダブルパンチは、コロナ禍を超える経営危機として現場に重くのしかかっています。
■ 「想定外」は、本当に想定外だったのか
今回の事態を「想定外」と言うのは簡単です。でも少し立ち止まって考えてみてください。
日本のナフサ調達は中東に約4割を依存していました。中東地域の地政学的リスクは、以前から指摘されていたことです。ホルムズ海峡が何らかの理由で機能しなくなるシナリオは、エネルギー安全保障の専門家の間では繰り返し論じられてきた話でした。
「起きるとは思わなかった」と「起きることは知っていたが、対策を取らなかった」は、経営の文脈では同じことです。
明日、空気中の酸素が急に薄くなることを想定して備えることは、確かに難しい。でも「主要な仕入れ先が突然使えなくなったら」という問いは、経営者が持てる想定の範囲内にあったはずです。
コロナ禍でサプライチェーンが揺れた経験があったにもかかわらず、多くの企業が「喉元過ぎれば」で平時の体制に戻っていた。今回の事態は、そのことを改めて突きつけています。
■ サプライチェーンの途絶が「特殊な事態」ではなくなった
今回のナフサショックを機に、経営者が認識を改める必要があることがあります。
サプライチェーンの途絶は、もはや「特殊な事態」ではありません。
2011年の東日本大震災、2020年のコロナ禍、そして2026年のナフサショック。おおよそ10年に一度、何らかの形でサプライチェーンが揺れる事態が起きています。「次の10年で何かが起きる」という前提で経営を設計することが、今や当たり前のリスク管理になりつつあります。
特に中小企業にとってこの問題が深刻なのは、大企業に比べて代替調達先の開拓やリスク分散が難しいからです。仕入れ先が1〜2社に集中している、特定の原材料への依存度が高い、在庫を持つ余力が限られている——こういった構造的な脆弱性を、多くの中小企業が抱えています。
■ 今、経営者が考えるべき3つのこと
では、今この状況から何を学び、何を備えるべきか。私が現場の視点から考える3つを挙げます。
【1】自社のサプライチェーンの「急所」を把握する
まず、自社の仕入れ構造を改めて見直してください。「これが入らなくなったら事業が止まる」という原材料・部品・サービスは何か。それはどこから、どのくらいの在庫で、どんな条件で調達しているか。
この「急所」を把握している経営者と把握していない経営者では、有事のときの対応速度がまったく違います。今すぐ紙に書き出す価値があります。
【2】代替調達先を「平時に」探しておく
代替調達先の開拓は、困ってからでは遅い。供給が滞り始めてから動いても、同じ状況にある競合他社と同じ市場を争うことになります。
平時に「もし今の仕入れ先が使えなくなったら」という前提で、代替候補を1〜2社リストアップしておくだけで、有事の対応が大きく変わります。完璧な代替先である必要はありません。「連絡が取れる関係がある」というだけで、危機時の選択肢が増えます。
【3】顧客・取引先とのコミュニケーションを先手で打つ
仕入れが厳しくなったとき、多くの経営者は「何とかなるかもしれない」と様子を見がちです。でも状況が悪化してから連絡するより、早い段階で「現状と見通し」を顧客・取引先に伝える方が、信頼を守ることができます。
「納期が遅れるかもしれない」「価格の見直しが必要になる可能性がある」——こういった情報を先手で共有できる経営者は、危機の中でも関係を維持できます。黙って対応するのは誠実に見えて、実は相手の判断機会を奪っています。
■ 「備える」ことの本質
今回の事態を受けて、「サプライチェーンのリスク管理をしなければ」と感じた経営者は多いと思います。
ただ、ここで一つ注意したいことがあります。
リスク管理は「完璧な備え」を目指すものではありません。すべてのリスクを事前に想定し、完全に対策することは不可能です。重要なのは「何が起きたとき、自分はどう動くか」という判断の枠組みを持っておくことです。
急所を知っている。代替の選択肢が一つある。顧客に先手で連絡できる。この3つがあるだけで、有事の経営判断はまったく変わります。
「まさかそんなことは起きない」という感覚は、経営者にとって最も危険な思い込みの一つです。起きてから動くのではなく、起きる前に考えておく。その習慣を持てるかどうかが、10年後の会社の姿を分けると私は思っています。
■ まとめとアクションプラン
今日から試してほしいことが一つあります。
「これが入らなくなったら、事業が止まる」というものを一つ書き出してください。そして「その代替手段が今あるか」を確認してください。
答えが「ない」なら、今週中に一社、連絡を取れる候補を探してみてください。たったそれだけで、あなたの会社のリスク耐性は変わります。
当たり前が当たり前でなくなる日は、予告なく来ます。備えは、事が起きていない今日にしかできません。
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経営者のためのブログ Vol.257
ランナーズ株式会社 関根壮至
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