社員が辞めなかった会社の、地味すぎる理由
- 関根 壮至
- 5 分前
- 読了時間: 4分
経営者のためのブログ Vol.251
離職率が低い会社の話を聞くと、たいてい拍子抜けします。
「うちは特別な制度があるわけじゃないんですよ」
「給与も、業界の平均くらいだと思います」
「ただ、誰が何をするか、みんなが分かっている、というのはあるかもしれない」
だいたい、こんな話で派手なことはやってないんですよ。

■ 私が家業に入ってから数年で、人が辞めた
家業を承継して最初の数年間で、何人かの社員が辞めました。
原因を考えると、思い当たることはいくつかありました。でも正直なところ、当時の私は「給与が低いからだ」「仕事がきついからだ」と思っていました。
退職した社員の話を噂で聞いたのですが、
「給与は、正直それほど不満ではなかった」と。
ーーーじゃあ、なぜか?
「自分がここで何をすべき人間なのか、よく分からなくなってきた。会社が、いろいろ変わっていく中で、自分の立ち位置が見えなくなってきた感じがして」
という話でした。
■ 人が辞める原因は「役割の不明確さ」だった
人が辞める理由は、給与や労働時間だと思われがちです。たしかにそれも一因ではありますが、私がコンサルティングの現場で繰り返し目にするのは、それとは別の要因です。
「自分の立ち位置が見えない」
「頑張っても評価されているのか分からない」
「隣の人と役割が被っていて、何を任されているのかはっきりしない」
こういった声です。
これは給与の問題ではなく、「役割と権限の不明確さ」の問題です。
人は、自分が何者かが分からない環境で長く働き続けることができません。役割が曖昧なまま時間が過ぎると、存在意義への不安が積み重なり、やがて「もう出ていこう」という結論に向かっていきます。優秀な人材程、その傾向は強いようです。
帝国データバンクの2026年経営課題調査では、「業務の標準化」が58.3%と、人材関連の課題の中で大きく浮上しています。これは採用や賃上げとは違う文脈で、「仕事の役割と手順を明文化する」という地味な作業への注目が高まっていることを示しています。
■ 「役割の明文化」という地味な作業
では、具体的にどういうことをするのか?
難しい話ではありません。各社員について、以下の3つを紙に書いて共有するだけです。
1つ目は「この人が担当する仕事の範囲」です。どこからどこまでが自分の仕事か、境界線を明確にします。
2つ目は「この人が自分で判断できること」です。どのレベルまで自分で決めていいのか、権限の範囲を明確にします。
3つ目は「この人に期待する成果」です。何ができていれば「よくやっている」と言えるのか、基準を示します。
たったこれだけです。精緻な評価制度でも、ジョブディスクリプションでもありません。「あなたに任せていること」と「あなたに判断してほしいこと」を、言葉にして渡す。それだけです。
特に後継社長の方は、試してみてください。
「こんな当たり前のことを…」と思うかもしれませんが、社員の反応は予想外のことが起きると思います。
「ようやく何を期待されているか分かりました」と言う社員が、出てくるはずです。
■ 経営者にとっての盲点
経営者は、往々にして自分の期待を「言わなくても分かるはずだ」と思っています。
毎日顔を合わせているから。長く一緒に働いているから。もう十分に説明してきたから。
でも社員にとっては、聞かないと分からないことが山ほどあります。特に承継直後や組織変更の後は、「前と何が変わったのか」「自分はどう扱われるのか」という不安が水面下で広がっています。
このタイミングに言葉で示さないと、社員は自分なりに解釈を始めます。そしてその解釈が的外れだったとき、徐々にモチベーションが低下し、退職へと向かっていきます。
あなたの会社では、今この瞬間、社員は自分の役割を正しく理解できているでしょうか?
■ まとめとアクションプラン
今日からできることをひとつだけ提案します。
自社の社員を一人思い浮かべてください。その人に「あなたに期待していること」を言葉で伝えたのは、いつのことですか。
半年以上前なら、今週中に伝え直す価値があります。
1年以上前なら、すぐにやるべきです。
制度を作る必要はありません。面談の場でもいい。メモ書きでもいい。「あなたに任せていること」を言葉にして渡すだけで、人の働き方は変わります。
定着率が高い会社は、特別なことをしているのではありません。当たり前のことを、当たり前にやり続けているだけです。その「当たり前」が、意外と多くの会社でできていない。
この問いを、後継者・経営幹部の方々と一緒に深めているのが「社長の実務アカデミー」です。制度や施策の話ではなく、「経営者として何を言葉にするか」という実務の話をしています。関心のある方はぜひ覗いてみてください。
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